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症例紹介 犬の突発性前庭疾患 |
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患者さんは18歳の雄犬です。体重は14.5kg。突然、全身の激しい振るえ、高度の斜頚と旋回運動、眼球の回転運動がみられたとのことで、夜の10時頃、電話がありました。すぐに連れてきて頂き診察したところ、上記の症状が認められ、18歳という年齢的なことも勘案し、突発性前庭疾患と診断しました。軽度な症状は2〜3日前にも1度みられたとのことで、その際は、すぐに症状が治まったとのことです。今回は9時頃から症状がみられ始め、すぐに治まらなかったので治療の依頼がありました。 突発性前庭疾患は老齢性前庭症候群とも呼ばれ、中年から老年の犬にみられることが多く、突然の捻転斜頚と旋回運動(首を捻るように傾けてクルクル回る症状)、眼振(眼の振るえで回転運動が一般的)が特徴的な症状です 処置と経過は以下のとおりです。 直ちに高用量のステロイド剤を投与するとともに、皮下への点滴を行い、ビタミン剤と抗生物質も投与しました。ステロイド剤は脳浮腫を抑える目的で、点滴とビタミン剤は栄養補給、抗生物質は感染症を予防する目的で投与しました。厳寒期での発生であったため、自宅へ帰ってからの充分な保温も指示しました。 翌日の午前(12時間後)にも同様の処置を施しました。よく眠れなかったとのことで、鎮静剤も投与しました。 3日目にも同様の処置を施しましたが、眼球の回転運動はかなり治まりました。口元に柔らかいフードを運べば少量ながら食べられるようになり、水も飲んでいるとのことです。 4日目からは、点滴の代わりに経口補液剤で栄養補給をすることにし(自宅で給与)、ステロイド剤とビタミン剤、抗生物質の投与は継続しました。この日までに眼球の回転運動はほぼ治まり、斜頚もかなり改善されました。 5日目も前日と同様に処置しました。斜頚と旋回運動はまだ充分には回復しないものの、初診時に比べるとかなり改善され、翌日からは自宅療養としました。 6〜7日目までは高用量のステロイド剤投与を継続し、以後12日間かけてステロイド剤を漸減しながら投与しました。抗生物質は10日間、ビタミン剤は毎日投与することにしました。7日目には嘔吐がみられ、制吐剤を1日だけ処置しました。 18日目に診察したところ、眼球の回転運動と旋回運動は完全に治まり、歩行もまったく問題なく、食欲もかなり回復したとのことです。わずかに斜頚が認められ、視力も少し衰えたとのことで、これは後遺症として残るかも知れない旨、飼い主さんに理解してもらいました。 今回は18歳という高齢犬に発生が認められ、当初は治るかどうか危惧されましたが、症状が出てから非常に早い段階での処置が功を奏して、回復したものと思われます。 (追記:4カ月後の再受診で、後遺症として残っていた斜頚は、ほとんどわからないほどに回復していました) |
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