さとう動物病院
 長野県千曲市
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停留精巣(ていりゅうせいそう)の手術例
 犬の精巣(睾丸)は、胎生期には腹腔内にありますが、生後速やかに鼠径管(そけいかん)を経て体外に出て、陰嚢内に納まります。しかしながら陰嚢内まで下降できず、途中で留まっている状態が「停留精巣」です。これは「潜在精巣」もしくは「陰睾丸」とも呼ばれています。
 去勢手術は精巣を摘出することで、陰嚢内に納まっていれば、一カ所切開するだけで左右の精巣を摘出できます。停留精巣の場合は一カ所だけの切開では摘出できず、場合によっては腹膜を切開しなければなりません。精巣がどこまで降りてきているかにより手術法が異なりますので、部位別に説明します。
鼠径部の停留精巣
 精巣が体外に出ているものの、鼠径部に留まっている場合があります。この場合、切開箇所は2カ所になりますが、腹壁を切開する必要はありません。片側の場合が多いのですが、まれに両側の精巣が鼠径部までしか下降していないこともあります。右写真がその手術例で、ペニス両側の皮膚を切開し(矢印)、精巣を摘出しました。本来なら精巣は赤丸の陰嚢内になければなりません。ポイントは陰嚢に精巣が確認できない場合でも、鼠径部を精査することです。
腹腔内の停留精巣
  問題は、精巣が腹腔内に留まっている場合です。当院ではできるだけ負担が少なくてすむように、股間部の鼠径管から精巣を引き出す方法で手術を実施しています。この方法であれば、腹壁を開かずに摘出できるので、手術による負担を大幅に軽減できます。
 左の写真は、右側の精巣が腹腔内に留まっていた停留精巣の手術例です。写真に示したように、鼠径部の皮膚を切開し、鼠径管から精巣を引き出して摘出しました(青矢印)。右の写真の青矢印は停留精巣の手術部です。赤矢印は陰嚢で、左の精巣をここから摘出しました。
 なおこの手術方法は、仙台市の中尾淳先生が専門誌に発表した「犬の腹腔内潜在精巣の経鼠径管摘出手術」を参考にさせて頂きました(文永堂出版、獣医畜産新報)。
 精巣は体温より低くなければならず、陰嚢はそのために空冷装置です。停留精巣は常に体温と同じ温度で保たれるため、腫瘍を起こしやすくなります。
 腫瘍化した症例については、こちらご覧ください(犬の停留精巣による皮膚病)。
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